世界中が君の敵。2
「暗殺…!」
ヒナタは思わず叫んだ。
そしてはっとしたように口を押さえて自分自身を落ち着かせる。
「お前も忍びだろう」
父は厳しい。
それは日頃から思っていたが、娘が暗殺されるというのに冷静にそれを娘に伝えた。
この事はネジにも伝わっているのだろうか?
混乱した頭の中でふとそんな事が浮かんできた。
「あの…暗殺の事、ネジ兄さんには…」
「いや、伝えてはいない。これはお前自身の問題だ」
父は冷静に答えた。
まさかヒナタからネジに暗殺されるとは言えないだろう。
それも父はきっとお見通しなのだ。
…つまりは、自分の身は自分で守れ。という事だ。
そもそも、何故ヒナタが暗殺されなくてはいけないのか。
ヒナタを暗殺するなどという情報は何処から手に入れてきたのか。
疑問が浮かぶが怖くて聞けない。
もしかしたら暗部の者達が仕入れてきたのかもしれない。
とすると火影である綱手はこの事を知っているのか。
「火影様はご存知なのですか…?」
恐怖に声が震えたがそれを父に知られぬように振舞う。
「……」
父は無言のままだった。
それは綱手でさえも「ヒナタ暗殺」の事は知らない事を意味している。
なんという事だろう。
ついさっきまでは普通にいつも通り任務をしていたのに…。
人生、何が起こるか分からないとはまさにこの事だとヒナタは実感した。
「ヒナタ」
頭上から父の声が聞こえた。
「何処ぞの日向に恨みを持っている者がお前を暗殺しろと依頼をしたのかもしれない」
「え…?」
「確実には分からないが恐らくそうだろう」
「……」
「気をつけろ」
ヒナタはぱっと顔を上げた。
すでに父は自分を見てはいなかったが…
あの最後の言葉には親としての気持ちが入っていたのだろう。
ヒナタは複雑な気持ちで父を見つめていた。
* * * * *
日向…と言えばネジとかいう名前の奴しか思い浮かばない。
だが、ヒナタだとバキは言った。
「日向家、宗家の長女だ」
…もしかしてあのうじうじしていた女の事だろうか…。
なんとなく顔が浮かんできた気がする。
「写真か何かはないのか?」
テマリも同じ事を考えているらしい。
「…」
バキは何も言わずに黙ったままだ。
という事は…ない、という事だろう。
「いや、その必要はない」
ようやく我愛羅が口を開いた。
「そんなものなくてもすぐに殺す」
……。
しん、と我愛羅の言葉に誰もが黙って彼を見つめた。
威圧のあるその声は久しぶりに聞いた気がする。
テマリは息を飲んだ。
「そ、そうだよな。うん、写真なんかいらない、か…」
ちらっとカンクロウにテマリは話を振った。
「あ、あぁ、そうそう。別に大丈夫じゃん?」
焦りながらもカンクロウもテマリに同意する。
いや、同意するしかなかった。
我愛羅はそんな姉と兄を無表情で見つめた。
内心、何を考えてるのかは分からない。
(日向ヒナタ…)
その言葉は声には出さず、我愛羅の胸の中で消えていった。
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